社会情動的スキル研究拠点

社会情動的スキルの発達的変化、学校教育における育成方法、学力やウェルビーイングなどへの効果に関する研究
ジェームズ・ヘックマンらの論考(Heckman & Rubinstein、 2001)を嚆矢として、非認知能力に対する関心が年々高まっている。「非認知能力」とは、知能検査や学力検査などでは測定していない心の性質全般、すなわち「認知能力以外の力」のことである。「非認知能力」が具体的に何を含意した概念であるかについては、名称を含めて様々な議論がなされてきた。たとえばOECD(2015)は、非認知能力を社会情動的スキル(social and emotional skills)と言い換えた上で、「目標の達成」「他者との協働」「情動の制御」の3つの側面から、社会情動的スキルを捉えている。社会的には、「非認知能力」という言葉が浸透してきているものの、本研究ではOECDに基づき、「社会情動的スキル」という名称を用いる。
社会情動的スキルが注目されるようになった背景として、社会情動的スキルが将来の社会的な結果を予測することが挙げられる。たとえばHeckman(2013)では、社会情動的スキルが将来の賃金、健康、犯罪率などを予測することが報告されている。また、“Skills beget skills”(スキルがスキルを生む)といった表現が用いられているように、社会情動的スキルは次の段階の社会情動的スキルにもつながることから、幼児教育や小学校教育において社会情動的スキルを早期に育成することの重要性が指摘されている。
本邦においても、社会情動的スキルの重要性は認識されるようになり、たとえば横浜市や埼玉県、京都府、大阪府などでは、自治体の学力・学習状況調査を通して、学力と社会情動的スキルの関係や、社会情動的スキルの発達に関する検証が行われている。しかしながら、社会情動的スキルには非常に多様なスキルが含まれていることから、将来の学力やウェルビーイングにとって、どのスキルが特に重要であるかは明らかにされていない。また、社会情動的スキルの中には、学校教育において育成できるものもあれば、育成しにくいものもある。そのため、「どのようなスキルが将来の学力やウェルビーイングなどを予測するのか」「学力やウェルビーイングを予測する社会情動的スキルは、どのように発達し、学校教育の中でどのように育成できるか」という観点から研究を行うことは重要な課題である。
以上のことから本研究拠点では、①将来の学力やウェルビーイングなどを予測する社会情動的スキルの特定、②それらのスキルの発達的変化、および学校教育における育成方法について検討することを目的とする。本研究により、学校教育の中で育成すべきスキルとその育成方法が明らかになることで、教育実践に対して大きなインパクトがもたらされる。また、社会情動的スキルに関する長期的な調査、および育成方法に関する研究は国際的にも少ないことから、本研究は世界的にも先進的であり、高い学術的意義をも有している。