美術のつまずきの研究拠点

A I運動分析による空間認知のつまずき要因の解明と介入効果の検証
 本拠点は、空間認知の発達と老化の仕組みを解明し、芸術教育を主とした効果的なプログラムや介入策を開発することを目的とする。
 近年、AI技術が生活場面に浸透し、その舵を握る個人・組織の創造性や倫理観が問われている。芸術分野では、仮想的な空間を含めた膨大な情報やメディアが混在する状況にあり、芸術に対する作家性や価値性が急速に失われつつあることが危惧される。そこで、学校現場をはじめ芸術教育の研究分野において、芸術の本質や人類の文化的な営みの意味を問い直す必要に迫られている。特に事物の創造における「現実感の欠如」は際立った課題である。
 そこで本研究では、芸術活動に内在する人間本来の運動性に着目しながら、創造の起点や展開のプロセスを見直すことを目的とする。これまでの研究から、創造的な営みの基礎を形成する空間認知は、芸術の運動性と深く結びついていることがわかっている(伊東他,2025)。この視点は、絵画や彫刻といった素材や道具と身体のかかわりを長期的に形成する、従来の造形芸術の教育的価値を再定義するものである。既存の教育研究においては、①芸術の運動性と創造のプロセスが明確に関連付けられていなかったこと、②空間認知の発達やつまずきを示す客観的な指標がなかったこと、③芸術教育における介入の可能性が検討されていなかったことが課題であった。また、芸術活動を通して培われる空間認知のスキルは、学齢期だけでなく高齢者までを含めた幅広い世代においても、社会生活を豊かにする為に重要なスキルであることも見直す必要がある。そこで子どもを対象とした認知の発達だけでなく、加齢や障がいに伴う老化の可能性までを視野に入れ、教育支援の可能性を検討することが有用であろう。
 本拠点は、空間認知の発達・老化の指標を開発し、客観的なエビデンスを蓄積しながら、各世代に適した芸術プログラムの開発を目指す。